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水戸地方裁判所 昭和32年(ワ)103号 判決

原告 信戸智利雄 外二名

被告 国 外一名

訴訟代理人 板井俊雄 外五名

主文

原告らの所有権確認の訴をいずれも却下する。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者の申立

原告ら訴訟代理人は「(一)原告らと被告国及び同百里開拓農業協同組合との間において、別紙(二)記載の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)の各土地((ハ)(ニ)(ホ)の各土地につきては別紙面面(一)又は(二)の当該斜線部分)が被告百里開拓農業協同経合の所有であることを確認する。(二)被告両名に対し原告らが右(イ)(ロ)の各土地に対し使用収益権を有すること、及び原告信戸智利雄が右(ハ)の土地に対し、同刈屋秀男が右(二)の土地に対し、同川崎惣之助が右(ホ)の土地に対しそれぞれ使用収益権を有することを確認する。(三)訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、

被告指定代理人は本案前の申立として「原告らの本件訴はいずれも却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を本案の申立として「原告らの請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、

被告百里開拓農業協同組合(以下被告組合という)は本案前の申立として「原告らの所有権確認の訴を却下する。訴訟費用は原告らの負担とする」との判決を本案の申立として、「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、原告らの請求原因

(一)、原告らは被告組合の組合員であるが、被告組合は昭和二十五年二月一日別紙(ニ)記載の(イ)(ハ)(ニ)(ホ)の各土地((ハ)(ニ)(ホ)の各土地については別紙図面(一)又は(ニ)の当該線斜部分)を、昭和二十七年九月一日別紙(二)記載の(ロ)の土地をいづれも自作農創設特別措置法(以下「自創法」という。)第四十一条第一項第三号の規定により被告国より売渡しを受けその所有権を取得した。

(二)、原告らは農業協同組合法(以下「農協法」という。)第十九条被告組合定款第五十六条の規定により昭和二十七年三月八日被告組合総会の議決に基き被告組合との間に右(イ)(ロ)の各土地を、また原告信戸智利雄は右(ハ)の土地を、原告刈屋秀男は右(二)の土地を、原告川崎惣之助は右(ホ)の土地を使用収益すべき旨の専用契約を締結し、同契約は一年毎に更新して現在に至つた。しかして、右専用契約は貸借権類似の無名契約であり、また石契約には行政庁の許可を受けていないが無効ではない。蓋し行政庁の許可を得ないで組合が組合員に対しその所有地の使用収益権を与えても農協法の特殊性から農地法の精神は害されないし、農協法第十九条の規定があるのは農地法第七十三条の適用を排除する趣旨と見るべきだからである。したがつて、原告らは被告組同から右各土地につきそれぞれ有効に便用収益権の設定を受けたものである。

(三)、ところが被告組合は昭和三十二年三月十六日の臨時総会の議決を経て同年同月三十一日本件各土地を被告国に売渡す契約を締結し、同年四月二十七日その所有権移転登記手続をした。

(四)、しかしながら、右売買契約は次の理由によつて無効である。

(1)  右売買は本件各土地を航空自衛隊百里航空基地設定用地にあてるためになされたものであつて、自衛隊は戦力であるから右契約は憲法前文及び憲法第九条に違反する。しかして、自衛隊が戦力であることは別紙(三)記載の事実によつて明らかである。

自衛隊が戦力である場合自衛隊の航空基地設置のために土地を売る本件契約は左の理由によつて無効である。

(イ) 本件契約は強行法規違反である。

憲法第九十八条は、「この憲法は国の最高法規であつてその条規に反する法律命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部はその効力を有しない」と規定している。この規定の直接の適用対象は、いわゆる特別権力関係であるから、私法上の契約にもこの趣旨が及ぶかどうかが一応問題となる如くである。しかし、およそ国が最高法規において一定の理想を明言している以上その趣旨に反する法律行為の効果は否認されなければならない。このことは同条の如き条文があると否とを問わないのであつて、もしそのように解しなければ憲法の明文は空文に帰し、法の法たる意義は失われるであろう。ただその法規の効力の範囲は、憲法の明文の追う理想に照らし目的論的に決しなければならないであろう。交戦権の否認、戦力の不保持は憲法の基本的性格である国際平和主義の支柱であつて、この理想は最も強く推進されなければならないから、いやしくも戦力の保持増強を内容とする契約は無効と解すべきである。従つて本件の如き航空自衛隊の基地建設のために提供された本件各土地の売買契約は当然無効である。

(ロ) 本件契約は公序良俗(民法九〇条)に違反する。本件契約は再軍備を目的とするものであるが、かゝる目的は原子爆弾の洗礼を浴びて敗戦に終り戦争の無意味なことをさとつた現代社会の倫理観念からみて公序良俗に違反する。しかして、本件契約においてかゝる目的が当事者間に表示されたと否とを問わず右契約もまた公序良俗に違反し無効である。

(2)  本件各土地の売渡しに関する被告組合の臨時総会の議決は定数を欠き当然無効である。即ち、右臨時総会議事録によれば、右臨時総会は、組合員三十八名が出席して開かれ、組合有地の売渡しの可否について採決したところ、賛成二十三名、反対七名、その他二名をもつて売渡が可決された如くである。しかし、右議決の賛成者はいづれも各自己所有の農地を前年の十二月頃被告国(防衛庁)に売渡し、既にその代金を受取つているものである。農協法第十二条によれば農業協同組合の組合員たる資格者は、法人又は団体を除いては農民(一号)又は当該農業協同組合内に住所を有する個人で当該組合の施設を利用することを相当とする者(二号)に限られ、これをうけて、被告組合定款第八条は組合員たる資格者を組合の地区内に純粋入植又は増反入植した開拓農民及びこれと同居して農業に従事している者(一項)、又は地区内に居住する前項以外の者で組合の施設を利用することが適当と認められる者(二項)と規定している。しかして、農民とはみずから農業を営み、又は農業に従事する個人であるから(農協法三条一項)農地を売渡した者は既に農民ではない。また農地を売却し営農の意思を放棄した者が組合の施設を利用することが適当と認められないことは明らかである。従つて、右臨時総会の議決の賛成者は前記売渡しと同時に組合員資格を失つたのであるから、右総会の議決は定数を欠き無効である。従つて、右総会の議決の有効なことを前提としてなした本件売買契約も無効である。

しかしながら、被告らは右売買契約が有効であつて本件各土地が被告国の所有であると主張し、かつ前記専用契約に基く原告らの使用収益権を争うので、本件各土地が被告組合の所有であることの確認と、原告らが前記(イ)(ロ)の各土地に対し、原告信戸が前記(ハ)の土地に対し、原告刈屋が前記(ニ)の土地に対し、原告川崎が前記(ホ)の土地に対しいずれも使用収益権を有することの確認を求める。

二、原告らの請求原因に対する被告国の答弁

(一)  本案前の答弁

(1)  本件各土地所有権が被告組合の所有であることの確認を被告国に対して求める訴(請求趣旨第一項)は確認の利益がない。即ち、組合員は組合財産に対して当然かつ一般的な使用権を有するものではなく、単に農協法第十九条の規定による組合施設の専用契約によつてこれを有するにすぎない。従つて、原告らが組合員として当然に組合財産の使用収益権を有することを前提とした本訴請求は確認の利益がない。かりに、原告らが本件各土地に対し同法第十九条による使用収益権を有しているとしても、右権利は組合員たる地位から独立したものではなくその一内容をなしているに過ぎない。従つて、右権利は組合と組合員との内部関係に過ぎないのであるから、これを基礎に組合員個人が直接第三者たる被告国に対し組合財産の帰属の確定を求める法律上の利益を有しないといわなければならない。

また、原告らが組合員として被告組合に対し有する残余財産分配請求権等種々の権利は、本件各土地が被告組合の所有に属するかどうかとは法律上何らの関係がない。蓋し、原告らは組合員であつても本件各土地に対し何ら具体的な権利又は法律関係を有するものではなく、従つて本件各土地の帰属如何により組合員たる原告らの権利自体は直接左右されるものではないからである。本件各土地が被告組合に帰属するとすれば剰余金の配当及び残余財産分配等に際して被告組合に帰属しない場合より多額の分配ないし配当を受け得ることがあるにしても、それは本件各土地が被告組合に帰属することによつて生ずる間接的、事実的な結果にすぎず、これをもつて法律上の利害関係があるとはいえない。

また、原告らは単に組合員たるに止るのであるから法人たる組合に対する法律関係につき第三者たる国を相手として訴を提起しても、商法第二百六十七条の代表訴訟の如く特別規定が認められていない以上その判決の効力は被告組合に及ばず、従つて、紛争の終局的解決に資するものではない。

以上の次第であるから本訴請求は原告適格を欠き確認の利益がない。

(2)  本件各土地に対し原告らが使用収益権を有することの確認を被告国に対し求める訴(請求趣旨第二項)もその利益がない。即ち原告ら主張の専用契約による使用収益権は賃借権の如く組合員たる地位から独立したものではなく、単に組合員たる地位に内包される組合財産利用の一形態にすぎないのである。従つて、その利用関係はたとえ専用的であるとしても、組合と組合員との内部関係に過ぎず、これをもつて直接関係のない第三者たる被告国に対し主張し得べき性質の権利ではない。以上の次第であるから、被告国に対する本訴請求は被告たる適格を欠く者を相手にしたものであり、また確認の利益を欠くものといわなければならない。

(二)  本案の答弁

請求原因一、の(一)の事実は認める。

同(二)の事実及が法律解釈は争う。かりに原告らと被告組合との間に本件各土地につき原告ら主張の専用契約がなされたとしても右契約は次の理由で無効である。即ち、農地法第七十三条第一項は同法第六十一条によつて売渡された土地につきその売渡通知書に記載された同法第六十七条第一項第六号の時期到来後三年を経過する前に使用収益権を目的とする権利を設定し又は移転する場合には、同項但書に規定する場合を除いてすべて農林大臣の許可を受けなければならないと規定している。そして、本件各土地は自創法第四十一条第一項第三号により被告国より被告組合に売渡されたものであるから農地法施行法第十二条により農地法第七十三条の期間は八年と読みかえられ、従つて右期間内に専用契約を締結するには農林大臣の許可を要するところ、本件契約は右許可を受けていないから無効である。

同(三)の事実は認める。

同(四)の(1) の事実のうち、冒頭の本件売買契約は本件各土地を航空自衛隊百里航空基地設定用地にあてるためになされ事実は認めるがその余の事実は争う。

別紙(三)記載の

「一、戦力」の項は争う

「二、自衛隊の実態」の項は認める。

「三、自衛隊の軍隊性」の項は陸海空三自衛隊の定員、予算総額につきこれを認めるが、その余は争う。

自衛隊の航空基地設置のために土地を売る本件契約の解釈は争う。

同(四)の(2) の事実のうち、原告ら主張の被告組合臨時総会議事録によれば、右臨時総会においてその主張のような賛否の数をもつて売渡しが議決された事実、右議決の賛成者はすべて各自己所有の農地を被告国に売渡した事実、農協法及び被告組合定款にはその主張のような条文の規定がある事実は認めるがその余の事実は否認する。右議決の賛成者らと被告国との売買契約は右議決の後である昭和三十二年三月三十一日に締結されたものである。従つて、右契約の日時に右賛成者らの土地所有権が被告国に移転したものであるから右臨時総会開催当時、右賛成者らはなお農協法第十二条並びに被告組合定款八条に定める組合員たる資格を喪失していなかつたものである。従つて右議決は定足数を欠く無効なものではない。

三、原告らの請求原因に対する被告組合の答弁

(一)、本案前の答弁

本件各土地の所有権が被告組合に属するかどうかは事実上又は経済上においてはともかくとして組合員たる原告らの現在の法律的地位に直接何ら影響がないから請求趣旨第一項の訴は確認の利益がなく却下されるべきである。

(二)、本案の答弁

被告国の答弁と同趣旨の答弁をした。

四、被告国及び被告組合の本案前の答弁に対する原告らの主張

(一)、原告らが被告らに対し本件各土地が被告組合の所有であることの確認を求める利益は次の如くである。

(1)  原告らは叙上のように被告組合と農協法第十九条、被告組合定款第五十六条の規定により本件各土地につき専用契約を締結し使用収益権の設定を受けたばかりでなく原告らは組合財産に対し次のような権利を有する。即ち農協法第十条第一項第三項第十九条第二項第百一条第一号の諸規定その他同法における組合と組合員との関係からみて、右各法条は組合員が一般的に組合施設を利用する権利を有することを前提とした規定である。従つて原告らは当然に被告組合の財産に対し一般的な利用権を有している。

(2)  また、原告らは組合財産より剰余金配当請求権、残余財産分配請求権を有するのである。

およそ権利であつてもその内容を捨象した権利はあり得い。金銭債権ならばその金額が、土地利有権ならば目的物の範囲が権利の内容即ち権利そのものである。組合所有地の範囲は組合員の権利と無関係で間接的、事実的結果に過ぎないとするならば、組合所有地が皆無となり組合員の前記諸権利を行使し得なくなつても、なお組合は拱手傍観していなくてはならぬであろう。本件各土地の帰属如何は組合員たる原告の前記諸権利の行使について直接かつ法律上の利害関係をもたらすものである。これを組合内部の自治の問題に局限する理由はない。

(3)  また被告らは組合所有地の帰属如何は組合員の具体的な法律上の権利に影響を与えないから確認の利益がないと主張するが、このような主張は一般論として一般的な法人と社員との関係において妥当性をもつとしても、本件の場合一においては、被告組合の社団の特殊性からそのまゝ適合するものではない。蓋し、社員権の内容としての共益権即ち運営参加権(議決権、監査請求権等)も勿論であるが、自益権又は固有権としての財産的利益享受権は各社団によつてその内容を異にするのである。株式会社のような純粋な営利投資的性格を有する社団においては財産享受権としては主として利益配当請求権と残余財産分配請求権であるが、社団所有財産利用権は社員の一内容をなしていないから社団所有財産の帰属変更は、社員なる地位、権利に法律上の影響を与えないである。

これに対し、財産の使用利用を本来の目的とする社団又は法人においては、その帰属財産、特に代替性のないものの喪失は、その社員たる地位の喪失を意味し、法律上の地位が左右されるのである。これを本件についていえば、被告組合は本件各土地を含む百里という特定の限定された代替性のない土地の開拓を主たる目的として設立された法人であり、定款で定められたその土地の利用、使用、管理、保存、改良等に関する事項がこの組合員の最も重要にして中心的な地位の一部、一内容をなしているのである。従つて、組合財産の否定は原告らの権利、地位に法律上の影響を与えることになるのである。

(4)  また組合員たる原告らが第三者たる被告国に対し被告組合に対する法律関係の確認を求めても、既判力は組合に及ばないことは勿論であるが、原告らの権利が被告国によつて被告組合の所有であることを否認することにより侵害されている場合において、同被告に対して被告組合の所有であることが確認されてその侵害より救済され、さらに後日提起されるであろう被告国の原告らに対する本件各土地明渡請求訴訟においては前訴の既判力が及ぶのであるから、本訴確認請求は同被告に対する関係においても紛争の終局的解決をもたらすものである。従つて確認の利益もまたあるのである。

(二)、原告らが被告らに対し本件各土地に対する使用収益権を有するとの確認を求める利益は次の如くである。

本件各土地に対する前記専用契約に基く使用収益権は組合と組合員との内部関係又は組合員の地位に包含されるものではなく、たとえば、株式会社所有の建物に株主が賃借権を有する関係に類似するものであつて、組合員の地位とは別個の権利である。蓋しこのことは、右権利が組合員たる地位の取得とは別個の発生原因に基くこと、更に、組合施設を耕他的に利用しうるということ、専用契約の内容が公益に反する場合行政庁の取消を認めていること(農協法第九十七条)等から明らかである。もし右権利が組合員たる地位より流出する組合財産利用の一形態であるとすれば、特に改めて契約を締結する必要はないし、また他の組合員以上の権利義務を当然に負担することは組合員平等の原則に反することになる。そして、本件各土地が被告組合より被告国に売渡され、同被告が右各土地の所有権を主張することによつて原告らの本件使用収益権が脅やかされている以上、被告両名に対する関係において右権利を確認しておく必要がある。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告らが被告組合の組合員である事実、被告組合が昭和二十五年二月一日別紙(イ)(ハ)(ニ)(ホ)の各土地を同二十七年九月一日本件(ロ)の土地をいずれも自創法第四十一条第一項第三号の規定により被告国より売渡しをうけてその所有権を取得した事実、及び被告組合が昭和三十二年三月十六日の組合臨時総会の議決を経て同年同月三十一日本件各土地を被告国に売渡し、同年四月二十七日その所有権移転登記手続をした事実はいずれも当事者間に争がない。

二、よつて、先ず原告らに被告組合が本件各土地を被告国に売渡した契約が無効であることを理由とし、被告らに対し本件各土地が被告組合の所有であることの確認を求める訴(請求趣旨第一項)の利益があるかどうかにつき判断する。

およそ確認の利益があるというためには、自己の権利又は法律関係が他人の否認、侵害又は相容れない権利の主張等によつて直接脅かされ又は妨害され、不明確、危険不安の状態におかれていて、しかも一定の権利又は法律関係の存否の確認が自己の現在の法律的地位の安定に役立つことを要すると解すべきところ、原告らは本件各土地が被告組合の所有でないということになれば、原告らが被告組合の組合員として有する組合財産の一般的利用権、剰余金配当請求権及び残余財産分配請求権等が侵害されるので被告組合の所有であることの確認を求める利益があると主張する。

原告らは被告組合の組合員たる資格において組合に対し、経済的利益を直接享受することを内容とする組合事業利用権、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権、持分払戻請求権を有しているら、原告らは本件各土地についても他の組合員同様にこれを利用し得る権利を有することは明らかであるけれども、これらは組合員たる地位に伴う一般的抽象的権利に過ぎないのであつて、そのことからだけでは原告らが本件各土地につき具体的権利を有しているとはいえない。もつとも原告らは(イ)(ロ)の各土地について原告ら三名が、(ハ)の土地については原告信戸が、(二)の土地については原告刈屋が、(ホ)の土地については原告川崎が、それぞれ被告組合と農協法第十九条被告組合定款(甲第二号証)第五十六条に基き専用契約を締結したので使用収益権を有していると主張するけれども後記認定のように原告らと被告組合との間に右専用契約を締結された事実はない。また被告組合が被告組合所有の本件各土地を被告国に売渡したことは、組合財産を現金化したのに過ぎないのであるから、そのことが果して具体的に原告らの組合に対して有する剰余金配当請求権及び残余財産分配請求権にいかなる侵害をなし或は影響を及ぼしたかも明らかでない。もとより被告組合においてその所有の採草地が減少することは、組合員たる原告らとしてはそれを利用することができなくなるので営農上影響を受けることは明らかであるけれども、原告らが組合員たる資格において前記のような権利を有していること及び右のような影響を受けるということだけでは、未だもつて本件各土地が被告組合の所有に属することの確認を求める利益があるとは認められない。

また原告らは被告組合の如く百里という特定の代替性のない土地の開拓を主たる目的として設立された法人にとつて、特定の代替性のない土地の喪失は組合員の地位に影響を及ぼすと主張するけれども成立に争のない甲第二号証(被告組合定款)第一条第二条によれば、被告組合は組合員が相協同して百里原地区の開拓事業を完遂し、開拓地の農業生産力の増進と組合員の経済的社会的地位の向上を図ることを目的として設立せられ、その目的を達するために被告組合の行う事業は開発建設事業、信用事業、組合員の事業又は生活に必要な物資の供給並びに利用施設、開拓用地の管理及び組合員に対する配分、共同販売購買事業、開拓地農業生産に関する事業等であることが認められ、又証人小野亨、同国安秀夫の各証言及び原告本人信戸智利雄、被告組合代表者土肥繁の各尋問の結果ならびに本件弁論の全趣旨を綜合すると、原告らを含む他の組合員は既に開懇農地の売渡を受けた者であり、未懇地のみが国から被告組合に売渡されたものであることが認められるので、本件未懇地(但し(イ)は現況宅地(ロ)は原況原野(ハ)(ニ)(ホ)は現況採草地)を喪失することは、原告らにとつて営農上影響を受けることがあつても、当然に組合員たる原告らの地位の喪失をもたらすものでないことは勿論、組合員たる地位に影響を及ぼすものでないことは被告組合の右設立の目的及びその事業内容に徴し明らかである。

また原告らは本件訴において勝訴すれば被告国より後日提起されるであろう本件各土地の明渡請求訴訟においてその既判力が被告国に及ぶのであるから被告組合の所有であることの確認を求める利益があると主張するが、単にそれだけの理由では未だもつて確認の利益があるとはいえない。

叙上の次第で、原告らは組合員個人としては、被告組合がその所有の本件各土地を被告国に売渡した契約が無効であることを前提として被告両名に対し本件各土地が被告組合の所有に属することの確認を求める利益はないものといわねばならない。

三、(1) 次に、原告らは農協法第十九条被告組合定款(甲第二号証)第五十六条の規定により昭和二十七年三月八日被告組合の総会の議決に基き被告との間に本件(イ)(ロ)の各土地を、原告信戸は(ハ)の土地を、原告刈屋は(二)の土地を、原告川崎は(ホ)の土地を、それぞれ使用収益すべき旨の専用契約を締結し、同契約は一年毎に更新して現在に至つたと主張し、被告両名に対し右使用収益権の確認(請求趣旨第二項)を求めるので、先ず確認の利益があるかどうかにつき判断する。

およそ農協法第十九条に規定する専用契約なるものは組合施設の一部の専属的な利用権を特定の組合員に与えることにより組合事業の利用量を確保して経営の安定を図ることを目的として組合と組合員との間に締結されるものであるから、組合員であれば当然に専属的に施設の使用収益権を有するというわけのものではなく、組合と組合施設の一部につき専用契約を締結した組合員にして初めて専用契約の期間中該施設を専属的排他的に使用収益し得る具体的強力な権利を取得するものであるから第三者が右権利の存在を争うときは確認訴訟を提起する法律上の利益があるというべく、この点に関する被告国の右と異なる見解は採用できない。

(2)  そこで進んで本案につき判断する。

原告らと被告組合との間に本件各土地につき専用契約が締結された事実はこれを認めるに足る証拠はなくもつとも証人近藤安雄、同小野亨、同国安秀夫の各証言及び原告本人信戸智利雄、被告組合代表者土肥繁の各尋問の結果を総合すると、被告組合においては被告国から被告組合に売渡された未懇地の利用方法につき協議し、これを採草地として各組合員が利用し得る範囲を事実上区分したこと、そして本件各土地も原告らがそれぞれ利用し得る採草地として区分されていたことが認められるけれども、右認定の程度の利用関係では未だ農協法第十九条にいう専用契約とはいえないし、その他第三者に主張し得る使用収益権の設定を受けたとは認められない。

四、そうだとすると、原告らの本訴請求中被告両名に対し本件各土地が被告組合の所有であることの確認を求める部分(請求趣旨第一項)は、確認の利益がないのでこれを不適法として却下し、その余の部分(請求趣旨第二項)は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 和田邦康 諸富吉嗣 入倉卓志)

別紙(一)(二)〈省略〉

別紙(三)

一、戦力

(一) 戦力抛棄の規定

日本国憲法は第九条で正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求するため戦争を抛棄し、陸海空軍その他戦力を保持しないと宣言している。故に我が国においては一部少数説の説く様な自衛及び制裁のための戦力は保持しうるという考えを採らぬ限り、自衛の目的たると侵略の目的たるとを問わず陸海空軍は勿論一切の戦力は存在しえないのである。

(二) 陸海空軍及びその他の戦力の意義

それでは憲法でいう陸海空軍及びその他の戦力とは何を指すのか。陸海空軍が何かは常識的に明らかであるが、その程度に至らない戦力と非戦力との限界はどこにあるのか。戦力と最も類似した性格のものとして警察が考えられるので両者の差異を明かにすることによつてその限界を検討してみたい。この場合戦力なりや否やは客観的な問題であるから、政府の意図如何にかかわらず、(それも一つの事実とみて)客観的な存在形態によつて決すべきであろう。そうすると戦力の標識として次の三点を挙げることができる。

第一は組織である。警察は国内の治安を保つこと、つまり社会公共の秩序を維持することを目的とするのに対し、戦力は、外敵の侵入に対し自国を防衛し、他国を武力を以て制裁し、又他国を侵略することを本来の任務とする。戦力が治安目的に用いられることがあるとしてもそれは警察力のみによつては国内治安を維持できない例外的な場合だけである。所謂、間接侵略は外国から武器の補給を受けてその外国のために暴動を起す如きことで形式的には国内問題の如くであつてもその実体は外部に対するものであるから、対抗する実力も戦力である。戦力の目的がかようなものである以上その組織も戦闘遂行に適したものにならざるをえない。即ち所謂軍隊組織を持つことになる。軍隊組織とは、強力な上下の指揮命令系統、営舎における共同生活、自由な退営の制限、予備退役などの身分的束縛、戦闘用の訓練などである。これら組織の一切は一朝有事の際最も効果的に戦闘を遂行せしめるためのものである。

第二に装備である。戦力が対外戦を目的とする以上戦力と呼ばれるためには相当程度の兵器を備えねばならない。その相当とはどの程度かといつても、一概には定められず、武器の発達に応じ、或は近隣諸国の武力の程度により相対的である。嘗つて戦力であつた弓矢鎧兜は今日では警察力ともいえないであろうし、普通警察力と考えられる程度のものでも後進国に対しては侵略の武器になりうる。しかし、それにしても、戦力と警察力の間口は武器の質量からみて明確な一線を引くことができるのである。

第三は戦力維持に要する費用である。戦力保持のためには相当の国家予算を必要とし、警察力維持の予算とは規模において相違する筈である。

右の諸規準に照し、果して自衛隊は軍隊乃至戦力といえるでろうか。以下自衛隊の実態を歴史、組織、装備、予算の各方面から眺めてみよう。

二、自衛隊の実態

(一) 自衛隊の歴史

昭和二十五年八月十日、朝鮮動乱勃発直後、占領軍総司令官の覚書に基き隊員七万五千名からなる警察予備隊が生れた(昭和二五・八・一〇、政令二六〇警察予備隊令)。昭和二十七年五月二十七日警察予備隊は定員を十一万人に増強し、同年四月二十六日海上警備隊が海上保安庁の機関として発足し(海上保安庁法の一部を改正する法律)、更に同年十月十五日警察予備隊と海上警備隊を統合した保安隊が設置された(昭和二七・七・三一・法律二六五保安庁法)。昭和二九年七月一日に保安隊を陸上自衛隊、警備隊を海上自衛隊と改めたほか、新たに航空自衛隊が創設され、総理府の外局として防衛庁が誕生、(昭二九・六・九、法律一六四、防衛庁設置法、法律一六五自衛隊法)今日に及んでいる。

(二) 自衛隊の組織

防衛庁は総理府の外局として内閣総理大臣の指揮監督下にあり、(防衛庁設置法二条-以下設置法という)防衛庁長官は国務大臣をもつて充て内閣総理大臣の指揮監督を受けて庁務を統括する(同法三条)。防衛庁には内局として長官官房、防衛、教育、人事経理及び装備の五局(同法一〇条以下)、統合幕僚会議(同法二十五条以下)、陸上、海上、航空幕僚監部(同法二一条以下)が置かれ、そのほか附属機関(防衛研修所、防衛大学校、技術研究所建設本部及び調達実施本部-同法三一条以下)、部隊(自衛隊法一〇条以下)、機関(学校、補給処、病院、地方連絡部-同法二四条以下)がある。組織の大要は別紙一覧表(一)のとおりである。

(三) 自衛隊の編成

(1)  陸上自衛隊

定員は一六万人の陸上自衛官のほか、一一、九一七のその他の職員である。(防衛庁設置法七条二項)。この人員が陸上幕僚監部(設置法二一条以下)のほか、方面隊、管区隊、混成団及び長官直轄の通信群、建設群、警務隊、監察隊等の後方部隊(自衛隊法一〇条以下)、補給処、病院、学校、地方連絡部等(自衛隊法二四条以下)の機関を構成している。

方面隊は北海道及び九州方面におかれ、北部方面隊は方面総監部(札幌市)、第二、第五の二管区隊、第七混成団、特科団一、その他特車群、施設群等の部隊より編成される。

北海道及び九州方面以外の地域に長官直轄部隊として三管区隊及び一混成団が置かれている。管区隊と管区総監部及び普通科連隊三、特科連隊一、特軍大隊一、施設大隊一、衛生大隊一、航空隊一その他の部隊をもつて編成される。混成団は長官直轄のものと方面隊に所属するものとがあるが、いずれも約六、〇〇〇人を基準として混成団本部及び普通科連隊一、特科連隊一、施設大隊一、航空隊一その他の部隊より編成される。

以上の主動部隊を維持するために後方の管理補給の任に当る後方部隊及び補給処、病院等の機関が別にある。機関のうち、補給処は、需品、火器、弾薬、車輌、各種器材の調達、保管、補給、整備、調査研究を行う機関で単一中央補給処としては、需品、施設、通信、衛生、武器各補給処が、又総合地区補給処として、北海道、関西、九州各地区補給処がある。

(2)  海上自衛隊

総定員は、二四、一四六人の海上自衛官のほか、一、九一六人のその他の職員である。これらが、海上幕僚監部のほか、自衛艦隊一、地方隊五、練習隊群一、掃海隊群一及び長官直轄通信隊等の部隊並びに学校、病院等の機関を構成している。自衛艦隊は護衛及び警備の任に当るもので、機動的に使われ、護衛隊軍二その他からなつている。

地方隊には横須賀、呉、佐世保、舞鶴及び大湊の五地方隊がある。地方隊は全国を五つに分けた警備区域において、それぞれの区域の警備を主たる任務としており、地方総監部、護衛隊、警戒隊、駆潜隊、掃海隊、魚雷艇隊、舟艇隊、基地隊、航空隊、教育隊、通信隊、基地警防隊その他長官の定める部隊の組合せにより、多少規模の異なる編成をとつている。

(3)  航空自衛隊

総定員は一九、九二五人の航空自衛官のほか、二、七二二人のその他の職員である。

これらが、航空幕僚監部のほか航空集団(府中市)、第一航空団(浜松市)、第二航空団(北海道千歳郡千歳町)、第三航空団(宮城県桃生郡矢本町)、航空保安管制気象群(府中市)、航空教育隊(防府市)、実験航空隊(岐阜県稲葉郡那加町)、教材整備隊(浜松市)、資材統制隊(東京都目黒区)、臨時美保派遣隊、第一補給処(木更津市)、第二補給処(岐阜県)その他の部隊、学校等の機関を構成している。

第一航空団及び第四航空団はF-86の乗員を訓練することを主任務とする部隊である。航空集団は、実施部隊の総合部隊であり第二航空団(F-86の実施部隊)、訓練航空警戒群(北部、中部、西部の三つ)等より編成されている。

(四) 自衛隊の装備

(1)  陸上自衛隊

武器としては、拳銃、騎銃、小銃、自動小銃、短機関銃口径〇・四五吋、軽機関銃口径〇・三吋、重機関銃口径〇・三吋、機関銃口径〇・五吋、バズーカ砲、六〇耗迫撃砲、八一耗迫撃砲、四・二吋追撃砲、七五耗無反動砲、一〇五耗榴弾砲、一五五耗榴弾砲、八吋榴弾砲、一五五耗加農砲、四〇耗高射砲、九〇耗高射機関銃、高特車及び中特車等であつて、大部分が米国政府から供与を受けたものである。車輌としてはトラック二・五トン、トラック3/4トン、ジープ、ハーフトラック等がある。なおこのほか、土木用としてブルトーザー、グレーダー、トラッククレーン等を有している。連絡用としてL19型九八機、L21型五六機、LM型二七機及びKAL型一機の軽飛行機と、ヘリコプターH13型一六機、H19型が一七機合計二一五機の航空機がある。

通信としては、方面隊、管区隊及び混成団と中央を結ぶ有線及び無線による固定幹線連絡網をほぼ完備している。特に日本電信電話公社のマイクロ回線を専用し、札幌-東京-熊本を結ぶ骨幹通信網を利用し、海上及び航空自衛隊と共用して各部遂と中央の通信の速達を計つている。

部隊用通信としては、野外用電話機、移動用の各種線機を使用している。

(2)  海上自衛隊

現在保有する艦船は警備艦三二隻、四七、〇三〇トン(くす型一、四五〇トン一八隻、あさかぜ型一、六三〇トン二隻、あさひ型一、五一〇トン二隻、わかば型一、二五〇トン一隻)をはじめ掃海艦一隻二、八六〇トン、敷設艦一隻九五〇トン、潜水艦一隻一、五二五トン、警備艇四五隻一三、七二五トン、掃海艇五九隻一〇、五六四トン、駆潜艇、魚雷艇及びその他の自衛艦七八隻七、七五四トン計二一七隻八四、四〇八トンほか、艦船一九七隻一二、七六二トン、総計四一四隻九七、一七〇トンである。このうちには昭和二十八年度、二十九年度、三十年度計画新造艦船(警備艦、敷設艦、掃海艇、駆潜艇及び魚雷艇等)四〇隻一九、九三一トンが竣工、就役している。以上のほか三十一年度及び三十二年度新造計画として警備艦四隻、潜水艦一隻、掃海艇五隻、駆潜艦二隻及び高速救命艇一隻計一三隻一〇、一四九トンを建造する予定である。

航空機は練習機T34一機、SNJ四八機、対潜哨戒機P2V-7一〇機、PV-2一四機、TBM一六機、S2F一六機、哨戒機PBY二機、JRF四機、機上作業練習機SNB三二機、連絡機KAL一機、ヘリコプター一三機、計一五七機である。

通信としては、有線、無線により各地方総監部と中央を結ぶ幹線系、各航空基地間を結ぶ航空幹線系が完備し、艦船及び航空機との連絡に当る海岸局、航空局の外無線標織局も着々整備されつつある。また艦舶及び航空機の無線設備は最新方式の各種移動用無線機も設備している。

(3)  航空自衛隊

昭和三十二年十月末日における航空機は、練習機T34一三九機、T6一七〇機、T28B一機、ジエット練習機T33A一七六機、デハビラント・パンパイヤー一機、ジエット戦斗機F86二二四機、輸送機C46三五機、連絡機KAL-2一機、計七四七機に達する。ジエット機の国産については、昭和三十年六月調印した「日米協同による生産計画第一設定」によりF86F型七〇機、T33A型九七機の生産が進行中であるが更に第二次として、F86F型一一〇機を昭和三十四年二月までに、T33A型八三機を昭和三十三年九月までに製造し、第三次としてF86F型を昭和三十五年三月までに、T33A型を昭和三十四年三月までに完成する予定であつた。

通信としては、有線、無線による各航空基地と中央を結ぶ幹線系と、各操縦学校と中央を結ぶ幹線系は着々整備されつつあり又飛行場における対航空機との管制通信用タワー、ホーマーGCA等航空保安上の無線局も整備されつつあり、各種航空機はVHF、UHFの移動用無線機を備えている。

(五) 自衛隊の階級、訓練予算

(1)  自衛隊の階級は、次の十五階級である(自衛隊法三二条)。陸(海、空)将、陸(海、空)将補、一等陸(海、空)佐、二等陸(海、空)佐、三等陸(海、空)佐、一等陸(海、空)尉、二等陸(海、空)尉、三等陸(海、空)尉、一等陸(海、空)曹、二等陸(海、空)曹、三等陸(海、空)曹、陸(海、空)士長、一等陸(海、空)士、二等陸(海、空)士、三等陸(海、空)士であつて、旧軍隊の階級制に類似している。注目すべきは、予備自衛官制度で、これは自衛隊の実力を非常時態発生に即して急速且つ計画的に確保する目的で昭和二十九年設けられたものであるが、その定員は九千五百人、月額千円の予備自衛官手当が支給され、防衛招集命令又は訓練招集命令により招集された場合、自衛官として勤務し又は訓練に従事しなければならない(同法六六条、七〇条、七一条)。これらの自衛官の中、一等陸曹、一等空曹及び一等海曹(船舶に乗せられた者を除く)以下の自衛官は長官の指定する営舎に居住しなければならず(自衛隊法施行規則五一条、五二条)、営舎外住居を許されている幹部自衛官及び許可をえて営舎外に居住している自衛官に対して長官は勤務のために特に必要があるときはいつでも営舎内居住を命ずることができ(同規則五五条)、訓練招集中の予備自衛官は長官の定めるところに従い、営舎その他の施設内に居住しなければならない(同規則五六条)。又陸士長、海士長又は空士長以下の自衛官として任用された隊員は契約書に署名押印しなければならない。その文言は「私は二年(又は三年)の任用期間中はみだりに退職することなく、自衛官としての職務を執行することを誓約いたします」である(同規則五九条)。

(2)  自衛隊には別表二のとおり各学校があつて自衛官の教育訓練に当つている(自衛隊法施行令三三条、三四条、三五条)。又陸上自衛隊には小演習場(二五万坪)四三ヶ所、中演習場(二五〇万坪)一三ヶ所、大演習場(三、〇〇〇万坪)五ヶ所があり、射撃場(七七七、〇〇〇坪)として近く整備完了のものも含め四七ヶ所が設けられている。

(3)  昭和二十八年度以後の自衛隊の予算とその国家予算との比率は別表三のとおりである。昭和三十二年度予算千十億円の内訳を組織別にみると左のとおりである。

陸上自衛隊    五〇二億四千六百万円

海上自衛隊    二一九億二千五百万円

航空自衛隊     二五五億五千三百円

内局及び附属機関  三二億七千四百万円

又修繕費は左のとおりである。

三、自衛隊の軍隊性

(一) 陸上自衛隊

以上述べた自衛隊の現状をみればその何たるやは明瞭であろう。陸上自衛隊の武器の大部分は米国政府から供与されたものであるが、追撃砲、バズーカ砲、榴弾砲、高射砲、特車(戦車)など何れも強力な外対戦闘用で治安目的に用いることは考えられない。陸上自衛隊の一中隊当りの総合火力は旧帝国陸軍のそれの約三十倍と評価されている。これだけの火力を有する部隊が号令一下北は北海道から南は鹿児島まで直に出動できる無線、有線、航空機の通信連絡網を完備しているのだから、その機動力を考慮すれば旧陸軍に五十倍する戦闘力を持つことになろう。又陸上自衛隊が前記の如き広大且つ多数の演習場、射撃場を必要とする所以のものは戦闘用訓練以外には考えられない。その訓練たるや白兵戦、散兵戦、射撃演習、渡河作戦、架橋工事、敵前上陸に備えるバリケート、トーチヵ等の障碍物構築、敵施設探索及び爆破、道路建設など悉く戦争のためのものである。更に幹部以外の自衛官が常時営舎に居住して、自由なる外出が許されず、予備自衛官の制度があることなどを考えると陸上自衛隊は既に戦力の域を脱して陸軍そのものであるといわざるをえない。

(二) 海上自衛隊

海上自衛隊の戦力性は陸上自衛隊の場合より一層顕著である。海上自衛隊の装備は総計三八七隻、九万一千六百十三屯であるから旧帝国海軍の陣容に比べれば問題にならないといえよう。然し、これが戦力か否かということになると海上における公共の秩序維持の必要と対比して決せられる訳だが、それには海賊、密輸、密出入国を取締るに必要にして十分な程度でよい筈である。然るにこれだけの海上警備力を以てしなければ海賊、密輸業者、密出入国者に対抗しえないなどとは到底考えられないのである。特に潜水艦、魚雷艇、掃海艇、対潜哨戒機などは、その性能からみて専ら外敵との戦闘用のものである。更にその定員、組織、訓練、予算等よりみれば海上自衛隊が戦力たるにとどまらず、海軍そのものであることは一点疑いを容れないのである。

(三) 航空自衛隊

同様に航空自衛隊も実質は空軍に他ならない。ジエット機を含む七五〇機の飛行機を国内治安維持のため使う場合があるなどとは予想もしえない。

陸海空三自衛隊の定員合計二十二万三千五百一人、予算総額千二億円(国家予算の約一割)、この膨大強力な組織が軍隊でないとは、今日誰も信じていないであろう。

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